それでは、流通系クレジットカード事業の実態はどのようにあるのか、ここでは大手流通企業であるイオングループのクレジットカード事業会社である、イオンクレジットサービスを取り上げる。
イオンクレジットサービスは2007年2月期で会員数1,722万人、取扱高2.4兆円、営業収益1,734億円、営業利益409億円を稼ぎ出す、イオングループ収益の稼ぎ柱の一つとなっている。また会員数は業界平均成長率である113%(平成17年特定サービス産業実態調査)を超える年率180%成長を直近4年間記録しているなど成長性も極めて高い。


■イオンクレジットサービス業績推移

まずイオングループにおける収益的貢献に関して整理したい。
一般的な小売・流通事業の収益性は低く、イオングループにおいても総合小売部門の営業利益率2%、経常利益率2.3%、純利益率1.5%(2007年2月決算資料)となっている。対して、イオンクレジットサービスの営業利益率24%、経常利益率24%、純利益率12%(2007年2月決算資料)と非常に高い。これでも2006年12月の貸金業法の改正により超過金利の払い戻しなどのファクターが働いており、前期よりも一律4%程度営業・経常利益率は低下している。

この収益の源泉を整理すると、取扱高比率ではカードショッピングが64.1%、消費者金融事業が28.0%となっている。しかし営業収益を見るとカードショッピングが22.9%、消費者金融事業が68.1%のシェアと、消費者金融事業が非常に大きな割合を占めている。つまりカードショッピングは収益の源泉としては相対的に少なく、主力は消費者金融事業と言えるのである。この傾向は、イオンクレジットサービスだけに限定されず、業界的に一般的な構造となっており、流通カードの業界平均として営業収益の67.7%が消費者金融事業に依存している(平成17年度特定サービス実態調査)。つまり流通系カードは収益をグループ内店舗でのカードショッピングではなく、消費者が負担する金利から得ていると分析ができる。
[*1 銀行系カードは42.6%,信販系は74.1%,中小小売商団体系は46%、その他系は21.3%と流通系カードは相対的に消費者金融事業収益が大きいのである]

またカードショッピングのグループ内利用高に関して考える。
イオンクレジットサービスのカードショッピング取扱高は1.5兆円。その一方でイオングループの総合小売と専門店の営業収益合計は、約4.4兆円となっている。平成14年度商業統計のクレジットカード利用率を見ても、最高の利用率である東京都でも15%程度となっており、全国平均では10%前後となっている。つまりこの利用率を用るとイオングループにおけるクレジットカード利用額は、総合小売・専門店の営業収益合計額の10-15%程度と仮定でき、それは4400億円-6600億円程度と見込まれる。つまりカードショッピングに関してもイオングループ内だけでなく、その他の小売店舗や飲食店などでも利用され、収益源となっていると考えられる。

さらにイオンクレジットは本業との相乗効果として、利用特典やポイント付加を設けることでイオン店舗への囲い込みを促進している。イオン感謝デーには割引率を高める(セゾンカードなども同様のプログラムを展開しているが)などはインセンティヴとなっている。
さらにメインカード化を促進するプログラムとして、前年度利用100万円以上で手数料0円でゴールドカード化、一定額を超えるとイオンラウンジ利用(イオン店舗内に設置されている休憩ルーム)といったものも積極的に展開することで、グループ外での利用も促進することで、イオングループの小売事業への貢献、並びにイオンの金融ビジネスとしての成長貢献を併せて実現してきたと言える。
[*2 なお短期的に2006年度貸金法改正によって収益悪化が発生していたが、その後前年比で極端に消費者金融取扱高が低下しているのではないため、手数料低下に伴う収益性に低下はあってもビジネス的に一切成り立たなくなることはないと考えられる。ただしこれまでの消費者金融事業の高い収益率に依存した、高いポイントプログラムなどは見直しに迫られる可能性がある。]

またカードのダイレクトマーケティングとしては、他社クレジットカードであっても、属性分析や購買場所・時間の補足は可能となっている。また他社システムでの自社発行カードであっても、精算が必要であることから購買場所などに関しては追跡可能と考える。さらに自社発行のカードであれば、グループ内のPOS情報との相互参照が可能であり、単品までの補足もシステム的には可能であると考えられる。カード利用があがればあがるほどにこれらの情報が収集され、消費者の消費行動パターンなどが分析可能になっていくと言える。また可処分所得を一定の推測可能と考える。

このように流通系企業によるクレジットカードビジネスは、

1.無料もしくは安い年会費、及びグループ店舗での割引をインセンティヴに会員を集める。
2.利用高に応じたプログラムで、クレジット利用を一枚に集約させる
3.消費者金融事業収益、グループ外でのクレジット利用収益によって、インセンティヴのさらなる充実を図る
4.マーケティング情報の収集

このような流れで着実に成果を上げ、前述したような高い収益による再投資余力を与え、本業へのマーケティング面でのプラス効果を生んでいると言える。

一方で中小小売商団体によるクレジットカードビジネスには、ここ数年で大きな革新的な取り組みはなく、商店街での定着率も極めて低い。そのためイオンクレジットのような流通系企業の展開してきた戦略はなく、手数料収益も囲い込み戦略も犠牲にし、さらに商店街各店舗は場合によっては流通系カードを消費者に自店で利用されることで手数料収益を彼らに支払っていた可能性もある。それは流通系カードだけでなく銀行系カードなども競合であり、彼らに対しても同様のことが言える。

しかしながら、全ての中小小売商団体が低迷していたわけではない。一部の中小小売商団体では独自のクレジットカード事業などを立ち上げて成果を上げているケースがある。続けて中小小売商団体による革新的な取り組みを取り上げたい。

■中小小売商団体による独自のクレジットカード事業