エンパブリックの広石さんより「まちの起業がどんどん生まれるコミュニティ」を頂戴しました。有難うございました。


ということで、早速、拝読させて頂きました。韓国の希望製作所の取り組みは以前から、日本の希望製作所設立前後からお聴きはしていましたが、その他現場のケーススタディについてはほとんど知識がありませんでした。ちょうど来月に韓国いくかもというタイミングで頂けたので、大変ありがたかったです。

さて、内容的にはしっかり皆さんにもご購入頂いてお読みいただきたいので詳細までは書きませんが、非常に面白い「住民による地域事業創発」に関するケースでした。一般的なまちづくりといえば、役所が何らか中心になって取り組むものが多かったり、都市中心部の商店街の人が取り組んだりするものが多くなるわけですが、この舞台となるソンミサンマウルのケースはあくまで住民が主体である点がまず興味深いところです。

ソンミサンマウルでは、1994年に集団移住した共働き25世帯が共同で育児施設を設立したことを皮切りに、小学校・中学校・高校の12年間連続の学校(代案学校)を設立、さらに購買生協を設立など次々と事業展開をづつけてきています。今では生協基盤を活用して様々なカフェなども経営するほど、その範囲は拡大しているそうです。

さて、このケースとしては住民の中から主体的に動くチームが様々に発生し、それが自分たちに必要な事業を開発、展開していくわけです。しかも、なんてことのないソウル市郊外の小さなまちだそうです。

ソンミサンマウルのケースを読んで私が感じたポイントがいくつかありましたので、簡単にまとめます。

1.自分たちで考える[自立的思考力]
ソンミサンマウルでは地元での自治体による貯水施設建設への反対運動も行っている。自治体により行われた社会的な決定に対しても、自分たちで専門家などの意見もきき本当にそれが必要なのか自分たちで考え、結果としてそれを撤回する論理的結論まで導くに至っている。(背景には勿論学生運動などもあるのでしょうね)

その他の事業でも本質的な自分たちに必要なサービスを考える努力をしている。社会への不満や公共サービスへの不満を唱えるだけでなく、自分たちで考えてその解決策を導こうとしている。それが先の学校建設や生協設立につながっていると思われる。

今の日本の地方都市でもこの常識を疑って、ゼロから自分たちの地域社会の未来に必要なものが何なのか考える必要がある。しかし意外とこれは難しい作業。「そんなことできっこない」と思われることをあり得ると考えて真剣に議論できるか、思考訓練が求められる作業はそうそう簡単にできることではない。

ただこれはあらゆる日本の地域でも求められている。今までの常識を突破せずには未来はない。

2.必要なことは自分たちでやる[主体的行動力]
自分で考えたことは自分でやる。これも重要なことです。誰かにやらせるとか、誰かやってくれないか、と待つのではなく、自ら取り組むということを当たり前のようにやっている。

これが意外と今の地域の取り組みでは難しい。口では言うけど、形にするのは誰かやってくれないかなーみたいなスタンスが多い。

ここが主体性をもってやるのが基本というのがすばらしい。

3.やりたい人が勝手にやる[脱・合意形成主義]
地域内で皆で合意をとってそれから、みたいなことはやらないというスタンスが自分のやり方にも近い。どんないいプランでも説得されると嫌気がさす、という記述があるがそのとおり。「まちで何かを全体で一致して取り組むことを諦めた」という記述があるが、これは本当に重要な点だと思う。

やりたい人が勝手にやる。説得しない。お願いしない。やりたい人たちが集まって、どう形にするかを真剣に議論し、結果を出していく。一番シンプルなやり方だ。

本ブログエントリーの下にあるワークシェア型での事業推進についても書かれており、いまどきの地域事業は万国共通で、この手のやり方が広がっていると痛感。今日日中話していたイギリスATCMでも同様とのことだった。

4.出資する[共同出資による資金調達]
事業に取り組むには資金が必要になる。これを自分たちで拠出してやっていくスタイルも卓越している。日本でも世界有数の生協グループが多数あることからも、これは本当は日本でも成立しているスキームだ。

リスクが高いと思われる初期の出資はなかなか皆が出したがらないが、そこを自分たちに必要なサービスを作るためという目的を明確にしたり、子供たちの将来のため、まちの将来のためという中身を詰めて説明して、主体的に取り組む人たち、自分たちが使う人達などが集まって出資をしている。日本でも自分たちでやりたいことにお金を出すことをためらう人たちは結構多い。何かやるときに人にお金出して貰う前に自分たちで拠出するという当たり前のことがなかなかできない。ここをやりきって、さらに学校建設などの数億円規模のPJでも実現できている点が非常に優れている。

補助金をもらいに行くとかではなく、自立して取り組むスキームが素晴らしい。

5.買い支える[計画的需要確保]
そしてその投資を安定的に回すためにも自分たちで作ったサービスを使う、ということで営業面で手堅くやっている。需要計画も全て地域内での買い支えをベースにしていることで、読み違えが小さいとのこと。

当たり前だが、出資だけするのでは事業は始められるだけだ。継続するには、買い支えとかをしてスタートアップを支えていかなくてはならない。これが実現されているのも優れている点だ。

買い支えは日本でも生協の典型的な営業スタイルだ。パルシステムが持つ子会社パルミートは初期には食べられないような無添加無着色ハム・ソーセージをつくっていたそうだが、今となっては国内最大の無添加無着色ハム・ソーセージメーカーとなっている。これも初期の食べられない時期にも買い支えをし継続可能な環境を作り、改良に改良を加えて今に至っているわけだ。ある意味で非市場的な環境を、皆で安全な食品を作り、支えるという命題のもとにR&D投資を「買う」という行為で皆でシェアしているわけだ。

ソンミサンマウルでも単に作るだけでなく、使うところまでしっかりしているのが強さの秘訣なのだろう。

■まとめ
これまで述べたように、ソンミサンマウルのまちづくり事業は、自らの頭で考え、自らやりたい人が行動し、出資もして、買い支えまでやる。この垂直統合的な地域課題解決の流れを形成し、地域に必要だと思われるサービスを様々なチームとその構成メンバーが互いに連携し、どんどんつくっていっている創発が起きている。

途中でマニュアル化ができないという記述が出てきたが、確かにプロセスそのものを真似るわけにはいかないが、この方法についてはメソッドとして体系化することはできる。つまり何を地域での共同事業で気を付けなくてはならないのか。やってはいけないのか、ということの示唆に富んでいるということだ。

また何より説得よりもやって見せるほうが良い、というのは日本のまちづくり事業でも同様のケースは多くある。私の取り組んできたPJの多くもこの手のものが多い。論より証拠といいますが、まさにそうだと思う。

ソンミサンマウルのケースは、住民による必要な地域サービス事業を自分たちでつくっていくという自立型コミュニティを形成する良いケーススタディだ。私は普段はまちづくり会社についての仕事が多いが、生協についても色々とプロジェクトをしてきたので、まちづくり生協というモデルについても改めて考えさせられた。これからの縮小都市時代には有効な地域サービスの作り方の一つであろう。

不平不満を言うよりも自ら考えてやってしまうなんて、格好いいですね。何より楽しんでいるのはさらに素晴らしい。

読みやすいコンパクトなハンドブックですので、ぜひどうぞ。
エンパブリックの広石さん、有難うございました。