最近、東京も地方も関係なく新しい価値の提供をされている方々は、マーケットの捉え方がそもそも従来と違うなと感じています。

というのも先日リノベーションスクールで改めてお話していて、この市場の捉え方は「針の穴マーケティング(ピンホールマーケティング)」だなと思わされたのです。そう、ちょっとターゲティングするとかではなく、もう超キワキワの絞り方をして競争優位を獲得しています。

今日はそんな話をまとめておきたいと思います。

◯商圏の捉え方
従来は、商圏という見方で、物理的制約の中で「量」を捉え、その市場の内容の違いは、人口、所得、性別、年代、など属性によって切り分けて「質」を捉えていました。全国津々浦々、この軸で、量×質→その立地での商売のあり方、を考えるってところがありました。


◯商圏内の競争の変化
70年代以降はスーパーの進出、90年代以降はモールなどの進出によってこの商圏範囲内で競争が激化して取り合いをしてきました。しかしながら、2005年以降はインターネット市場が一気に拡大し、今年とかはB2Cでも11兆円(コンビニが9兆円超くらい)とかにもなったりしている中で、地方でもこの物理的制約で閉ざしていた商圏が、開放されて食われています。特にメーカー品とかどこでも同じものは顕著ですよね。このような商材は薄利多売です。利幅は低いけれども、量をうって儲ける商売だったわけですが、もうローカルの店では、量を売れないので商売が成り立たなくなったところでございます。


◯一時期は正解だった「水平分業型」への転換
こんな状況にあるので、多くの商業地区においては、自分達で商売やることを諦めました。水平分業型への移行です。

自分達は資金調達してビルを建てて、不動産賃貸業に転換、経営効率の高い全国チェーンなどにテナントとして入居してもらって家賃をとるという業態に変わりました。できない場合はそのままシャッター商店街(ま、チェーン店商店街も廃墟になっていったりするのであくまで過渡です)。商業ビル賃貸に転換した場合には、管理会社に管理丸投げ、テナント付けも仲介会社に丸投げという水平分業型になりました。とはいえ、一方で、不動産経営が立ち行かなくなっても自力再建できないというところも少なく有りません。他人任せだからです。

また、これは中小のマンションオーナー業の人たちも、従来は自社管理していたけど、そのうちに管理会社入れたり、募集も不動産仲介に丸投げ。そのうちに新築の新しいマンションとかバリバリ周辺にたっていけば、値下げをしたり、入居審査基準を引き下げたりということで、人に商売を明け渡してやっていたというところがあります。

これらの特徴は皆、同じマーケットの捉え方をしている点です。
商圏を一般的な物理的制約で捉え、質の捉え方も同じで、最初は上のランクで、だんだんとランクを下げていくことで、顧客を獲得して行く感じです。こんなのも不毛な感じで、どんどんジリ貧になってきたわけです。

また水平分業型で対応することで、需要が供給を上回って、拡大を続けている均質的な内容と量の増加の環境では効率的に経営できました。
得意なことは得意な人に任せてやっていくという方式ですね。なおかつ情報格差の問題は市場側に接している側にあって、供給側は常に交渉優位でした。何しろ供給が足りないから、専門業者に任せておくだけで問題なかったわけです。しかしながら、今は違います。不動産みたいな空間系は特に顕著ですが、需要側のほうが小さいわけで、かつては交渉優位に立てて水平分業できていたオーナーサイドは、確実に交渉劣位です。ユーザーに近い側のほうがボトルネックなので、彼らのほうが強くなります。

バリューチェーンを見た時に、一番細いところを握った会社が強いわけです。ということで、今の時代は他人任せにしてきたオーナー側は、従来の商圏を対象に水平分業型ビジネスでは確実に「喰われる」側に立たされました。

こうして、拡大する市場全体を商圏で細切りにした均質なターゲットに対して水平分業型の事業で勝負する方法も転換する必要が出てきたわけです。


◯針の穴マーケティング
最近では、こんな状況を打破して中小であるけれども、とても面白い事例が沢山あります。
私の身の回りでも注目される事例の多くは、従来の商圏とかの概念とか、水平分業で人任せにするのとは程遠い、絞りに絞ったターゲットに、自分達が直接的に攻める人たちです。

3つほど事例をご紹介すると、

・(事例1) 冷泉荘
http://www.reizensou.com/

福岡市中心部の事例です。
正直、外観はちょーボロい賃貸住宅ですが、これをオーナーである吉原さんは「ビンテージ賃貸」ということで、しっかり耐震補強をほどこして、まだ数十年持つ建物に生まれ変わらせています。そして冷泉荘は「リノベーションミュージアム」と読んでいます。リブランディングが半端ないです。

何よりこの建物自体には多くの芸術家などが集まってきてアトリエを開いたり、ところによって飲食店を開いていたりと、もはや住居としての存在を超えています。しかも、単にリースしているってことではなく、自分達で発信力を持つ人達の拠点として、芸大で博士号までとったネットワーカーの管理人さんが借り手を発掘されています。針の穴マーケティングでは、普通の不動産仲介とか任せで借り手を探すってのではあかんのです。

まぁ建物自体が相当にキワキワなので、普通の「1LDKでうんぬん」みたいな人達は入らないと思うのですが、極めて発信力のある人だけを選抜して入れて、建物全体を面白くしてしまっている。今となっては、周辺の新築賃貸市場と同等の家賃で貸されていて、入りきらないほどの入居希望者がいる状況にまで達して、周辺物件まで巻き込んでいます。

中では、各部屋で様々な企画とかが開催されていて、多くの方が訪れています。
普通の貸し方をしていたら空き室ばかりで家賃も激安だったというのですから、ターゲットをこういう発信力のある特徴的な人たちを集めて、発表の場として再活用するという方向で運営するというかなり思い切った転換を図ることのすごさを感じます。。これらを自らが仕掛け、様々なテストを経て、確信をもって直接的に吉原さんたちが仕掛けているのも特徴ですね。

・(事例2) ロイヤルアネックス/青豆ハウス
http://ra.maison-aoki.jp/ http://www.aomame.jp/

もう一つは都内のケースとしては、青木さんが経営されている、ロイヤルアネックス/青豆ハウスは、またまたキワキワマーケティングで優位性を作られています。

まずロイヤルアネックスに関しては以下の過去のブログエントリーを見て欲しいですが、まさに三位一体で不動産価値を向上されています。この時には、単に建物の築年数とかの従来のスペックで探すのではなく、住んでいる人たちとのコミュニティに参加したいであったり、自分で壁紙選んだり、時には内装そのものを完全オーダーメイドで変えてしまうというフルカスタマイズを共に行うまでのコミットメントをしてくれる住い手だけをターゲットにしています。

従来の常識からすれば、最大公約数的に部屋はつくって供給すれば、あとは借り手がついてくれたわけですが、これは前述の通り市場構造が大きく変わってしまいました。だからこそ、ターゲットをある意味で、面倒くさいと思われてしまう人もいるくらいのカスタマイズやコミュニティ性が強い売りになっているのです。

【過去ブログ】貸し手と借り手と作り手、三位一体が切り拓く不動産の新たな価値 (No.981)

さらに新築で青豆ハウスというコーボラティブ的な賃貸住宅を自ら仕掛けられています。これなんかも作るまでの時間を共有するということをある意味で要件とし、建設途中で様々な企画をやって、そういう針の穴マーケティングに叶う居住者を集めていくプロセスを作り出していました。絞り込むことは普通の借り手の探し方じゃいけないわけです。それに適した方法を自ら作り出していらっしゃいます。

しかもオーナーである青木さん自らがこれらを仕掛けられていて、建築や内装など含めて様々なパートナーの方々はいらっしゃいますが、あくまで自前でこれらを進められています。人任せではないのです。

・(事例3)オガールベース
http://ogal-base.com/

最後に岩手県紫波町の事例です。この夏にオープンする予定のオガールベースは、完全民間資金で立てられる「バレーボール練習専用体育館」と「ビジネスホテル」などの複合施設です。

いいですか、バレーボール練習を主たる目的とした体育館を民間資金だけでつくってしまうのです。これを仕掛けているのは、岡﨑さん。自身もバレーボールをやっていたバリバリのバレーボール大好きな人ですが、体育館を民間人が借金して立てるというのは前代未聞です。万能体育館ではなく、あくまでバレーボールなのです。国際基準にも適合したタラフレックスという専用床まで入れて。針の穴マーケティングの極みでもあります。

しっかりと合宿需要を取り込めるように、宿泊施設を併設。平日はビジネスホテルですが、週末などはビジネス需要が低下すると共に合宿などでの利用を想定。すぐに隣接している岩手県フットボールセンターでのサッカー合宿も視野に入れられています。



【追加】岩手県紫波町「オガールプロジェクト」 補助金に頼らない新しい公民連携の未来予想図
http://www.huffingtonpost.jp/2014/09/10/shiwa_n_5795002.html

こちらでオガールベース完成後の模様もご覧いただけます。

◯超特化で商圏範囲は自然と拡大。

これらのケースでも統一しているのは、そもそも従来の商圏とかの捉え方、募集の時のスペックなどの捉え方が完全にゼロリセットされている点です。さらに、自分達が対象としようとしている人たちを超絞り込んでいる。だからターゲティングとかのレベルではなく、針の穴マーケティングなのです。

ターゲティングとかであれば、20~40代とかいってたのを20代だけにするとか、女性だけにしようとか、属性で絞り込んでいくわけです。けど、皆さんがされているのは、もっと人物像をもっと具体的に絞り込んでいる。吉原さんであれば、ミュージアムとして古い住宅スペースを活用してやっていく人たちのネットワークを駆使してアプローチされています。青木さんはカスタマイズやオーダーメイド、さらに居住する人たちのコミュニティへの参画という要素までを含めて居住空間のスペックにしてしまっているので、それに適合する人たちだけにアプローチされています。先日青木さんはTEDxTokyoでプレゼンされているくらい、様々な層の人達がこのストーリーに共感をしています。オガールベースもバレーボール練習というカテゴリに絞り込んでやっていく空間商品を作ってアプローチをしており、けれどもこんなものは全国にないので日本バレーボール協会含めて高い関心をひいて、既に合宿の申し込みから、専門トレーナーによる練習プログラムまでスタートしようとしています。引きが広域で半端ないわけです。

つまり、皆さん、絞りこみまくったことで逆に全国に分散してそういったものに関心をもっている人たちを超広域で集めてくることを可能にしています。今はネットもあるので、そういう共感を呼ぶことも行いやすいし、共感した人たちは強烈な支持者になってくれます。超特価することで、従来のような物理的範囲の商圏限界を突破しています。皆さんすごい範囲で引っ越してきたり、利用に訪れる人たちが生まれています。


◯垂直統合と明確なターゲットで事業の確実性を高め、収益力も高める。

さらに人任せにせず、オーナー自ら、もしくは自社内などでこれらの仕掛けを行っていることが多く、作るところから提供するとこまで自前主義、垂直統合で行われています。そのため、肝心の募集とかも自分達の力なので、それの反応で大きくサービスを変更したりとかも柔軟ですし、利用者までのプロセスで沢山の手数料を抜かれることもないです。

何より針の穴を定めるにあたって、皆さん無謀に取り組んでいるのではなく、テストをちゃんとしています。
冷泉荘であれば期間限定で芸術家とかを入れる事業に取り組んでみて手応えを感じしたり、ロイヤルアネックスも最初は壁紙を選択できるということを始めてみたらすごい世界観が変わったという経験があったり、オガールベースも岩手県のフットボールセンターを作る時に欧州チームの練習場スペックのサッカー特化型練習場にしたことで広域から人がくることが分かったりという、テストをしているんですよね。

そこで「具体的な◯◯さん」という像が見えてきて、その人達に絞り込んでサービスを変化させていく。
従来の仮想的な顧客像ではないんですよね。超明確な絞り込んだ対象なのです。けど、その人との強力なリレーションシップで作り込みをすると、強力な引きというか、一部に強力に支持されるものになる。針の穴マーケティングが、とんがってるけど市場性があるのは、そのあたりかと思います。試し打ちで一定層の絞込による当たりを確信し、その中から強力な顧客を見つけて絞り込む。

さらに、独自のサービスとして絞り込んだ人たち向けに提供しているので、決して安売りをしていません。希少性があるサービスであるからこそ、多数の競合との競争に巻き込まれることもないからです。また自身も中小規模の経営体なので、大企業のようなとてつもない量を供給しなくても経営がなりたつ。無闇な拡大を模索しない。結果として、高粗利体質を生み出しているといえるでしょう。少なくとも従来のような経年で値下げしていくということはないです。そしてみなさん、その分投資もされていらっしゃいますので、次なる顧客が現れ、良いサイクルが回っていく。

曖昧なターゲティングしたり、ペルソナ的な偶像を頼りに多くの人たちに対するサービスではなく、数は極めて限られるけれども、その限られた人たちにとってかけがえのないサービスを提供しようとする「針の穴マーケティング」は、まさしく巨大資本よりも中小零細資本にとって大変重要なアプローチであると思います。結果として商圏を一気に広げられ、さらに垂直統合で自分達で価格コントロールが出来る。なんでもかんでも出来ないからこそ、できることに絞り込んだ方法に活路があるなと思わされるところです。

誰にでも価値があるものは、誰にも価値がない。

そういう問題から脱する行動をとった人たちが、新たな時代に則した価値を生み出していると思わされるところです。
 
-------------------------


毎週火曜配信「エリア・イノベーション・レビュー」のお申込みはこちら。