成功事例の活かし方は、単純で、そのプロセスの徹底的なまでの模倣にある。結果を模倣するのは全くもって言外。

◯真似るべきはプロセス
自分も15年間の中でも幸いにして機会に恵まれて、15年前は早稲田商店会で、その後も熊本をはじめ地方でも仲間と実践してきた新しい事業的なアプローチで成果を出せたりしている。これらで共通するのは、一見すると非常識なアプローチを徹底してやったり、通常の場合には都合が悪いから放置したりすることを放置しないで愚直にやったりするのだが、こういう当たり前のことが意外と難しい。プロセスを徹底するのってキツイですよね。多くの人立ちはそういうことはしたくない。




◯プロセス・スキップを可能にする補助金
だから補助金とか使ってしまう。補助金とかって一種のプロセス・スキップだから、結局は成功事例のノウハウを生かしきれない。成功事例チームが経験してきた壁を自分達を越えなくてはならないので、裏口から入って壁を回避する。例えば、事業に必要な資金を稼ぐためには、相手にとってのメリットを考えなくてはならない。このメリットを考えるプロセスの中で、ひとりよがりではなく、相手にとってもメリットがあり、自分にもメリットがあり、さらに地域の何らかの問題解決につながる要素を組み合わせて、一つの取り組みが出来上がっていく。しかしお金があればそんなことはせず、外注で人を動かして事業を可能にしてしまう。しかし一方的な資金で動かした取り組みは、お金が尽きれば継続しない陳腐なモデルである。「金がでると知恵が引っ込む」と早稲田での取り組みではいつも会長が口酸っぱくいっていたのを思い出す。

さらに成功事例集などをまとめている人たちもプロセス自体も実践していない人は細かく理解できないため、分析に大いに間違いも多くあるし、プロセスを2pageの事例集の紙面で伝えるなんてことはほぼ不可能でもある。つまりは成功事例中による不完全な情報提供と、プロセス・スキップを可能にしてしまう補助金によって、後発地域では成功は再現されないことがほとんどである。

◯水平展開政策自体にも問題

例えば、米国では地域関連事業の水平展開は成功事例をつくった組織自体に任されることがある。成功事例自体を生み出したチーム自身に水平展開させるようなリプリケーション・ストラテジー(水平展開)をとったほうが、成功確率があがるからだ。専門部署を成功事例の組織に作り、そこに対してプロセスを解析し、テキストを作り、サポートを行う体制を構築する。この時にチェーンストア理論などの背景から成功事例を広げる組織モデルを設計したり、インセンティブモデルをつくったり様々な専門家が入る。しかし日本では未だまちづくり政策の専門家、と呼ばれる人たちで成功事例の水平展開政策を議論している。結果として、前述の成功事例集と補助金という効力のうすい支援政策が続いてしまっている。

◯民間によるブートキャンプなどの実績
手前味噌であるが、AIAや公民連携事業機構で実践者たちが組み立てて実施しているブートキャンプという、後発地域向けの合宿プログラムが水平展開で一定の成果をあげてきている。

概ね参加地域の半数程度は持続的な事業化に成功している。その理由としては、プロセス・スキップを許さないからである。今年からはeラーニングも導入して細かな基本的思考、ノウハウを学習し、その上で事業計画を合宿で策定して、その後のプロセスはオンラインのプロジェクト・マネジメントを徹底して行う。ひつこいくらいに徹底する。それくらいプロセスを踏む必要があるのだ。
一方で事業化できなかった地域の多くは、面倒なプロセスを回避しようとしたり、面倒だからやらないという選択をとったところである。地域での事業は面倒なのである。立ち上げる時は面倒なのは仕方ない。だからこそ生産性の高いネットのサポート・システムなどを駆使して、できるだけ短期間で立ち上げを行うという時間感覚が求められる。

どちらにしても公的な支援制度よりも全くお金をかけていない民間によるブートキャンプなどのほうが、個別事業の再現性の面でも、それをけん引する人材育成面でも優れた結果を残していることは注目すべきであると思っている。

◯事例主義に陥る支援政策
しかも、個別事例としては成果を挙げているとしても、その支援を政策的に実施しても無意味だったりする。中心市街地における施設設置・移転に関する各種補助金でも支援政策自体が効果を発していないものは沢山ある。しかし個別事例だけを表に出して「ほら、できました」と出してしまったりする。"成功事例"というのはそういう意味では、マクロ的に全く効果の出ていない政策をさも実績があるように見せられるマジックにもなり得る。

事例の重要性はプロセスの模倣であると共に、支援政策の重要性はマクロ的な誘導策としての有効性である。単に成功事例が生み出した結果を、市場外の資金(税金)の力で他の地域で実現させるのが政策ではない。税制や規制緩和といった策を講じ、皆が「こうしよう」と誘導して、全体の構造や流れを変えることにある。


【参考】「中心市街地活性化政策における公共施設設置・移転の効果に関する研究」
http://www3.grips.ac.jp/~up/pdf/paper2009/MJU09065fukushi.pdf




まちづくりが未だ政策的にも、事業的にもサイエンスではないのが極めて問題なのだと思うところ。
成功事例から学べるのは公式であって、インプットとアウトプットは各地域で全くことなるものになるのが当たり前なのです。変数は各地域で異なり、だからこそ結果も変わってくる。

我々としては極めてファクトベースの検証を行いながら、1つの事業モデルについての成功確率の向上、リードタイムの圧縮、生産性の改善に焦点を合わせたプロセスの見直しをはかりつづけたいと思う。





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