先日、カタリストBAで「公共」を創るという企画で、議論した内容を少し私なりに整理しようかなと思っています。

以下のレポートは前半だけですが、どうぞ。

◯[report] EDGE TOKYO DRINKS 06  -「公共」を創る -

まちづくりという分野は、かつては、市場が全てそこそこうまくいってて、その上で行政が行う区画化整理、再開発などの公共事業の設定に対する市民の意見の反映であったりとか、そういうプロセス自体に社会コストを支払うことを意味していたわけです。市民参画のまちづくりというのは、この延長線で意見反映だけでなく、自分たちでも公共支えましょう、みたいな話になってきている。

しかし今のまちづくりの課題は、パイを再分配したり、再分配ではない活動ベースでの取り組みで地域を支えようというレベルを超えて、人々の生活基盤そのものがうまくいかなくなってしまっている。だからこそ、市場とも向き合わなくては全部行政からの再分配依存になって、結果的に衰退問題と向き合う時代には全く馴染まない。かといって、市場からの収益を当事者たちだけで分配をしていると、皆が必要とする社会サービスを担保できないので、様々な再分配などの制度もどう設定するか改めて考えていかなくてはならない。

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重要なのは、上側だけも下側だけでもなく、むしろ順序で、下を考えた上で、上を考えるということである。上から考えても、市場がなく=仕事がない地域では、人々は地域から抜けていく。特に若者など職をこれから得ていこうという人たちは特に流出する。また市場が減少していく場合には、当然ながら所得が下がっていくし、連鎖して固定資産税や法人税なども全て凹むため、上の有るべき姿から議論しても「無い袖は振れない」という話になる。

本当に残酷であるが、産業空洞化型の都市、つまりは炭鉱や林業や造船とか化学工業とか最近であればエレクトロニクスとか、日本の高度経済成長の時代時代を支えてきた産業分野がダメになると、その工場立地エリアとかは悲惨なほど衰退する。ただそれはまた、ある意味では当然でもある。先日のデトロイトの破綻というのは、下が巨大だった時代に構築した様々な制度が残り、上の側ばかりが大きくなって支えきれなくなってしまったというあたりの問題があるわけである。

ということで、今後の公共論というのは、単に行政の政策に民間の合意形成を入れるとか、皆で社会支えましょうという互助的なしくみ、というところだけでなく、この市場をどう地域の中で見ていくのか、新たなプレイヤーを増やしたりして新陳代謝を生み出すのかというダイナミクスについて考えなくてはならないのです。

ただこれは、大いに上側部分の既存の政治・行政自体、またそれに深く刺さった地元の様々な団体という一つの地域コミュニティのヒエラルキーを破壊することにも繋がる場合もあります。そのため、多くの場合は現在の延長線で再生計画を組み立てたりして、やはり市場の部分についてはあまり手を入れずにダメになっているところに、上から金を突っ込むという話をもとに「保護」していく話になったりします。そうすると、ますます新しい人が市場部分には出てきにくくなったり、もしくは新しい芽のある人にも行政・制度からの資金を供出してしまって、不健康な経営状態になってしまったりもします。

大変苦しい決断が迫られた時に試されるのは、政治・行政側のトップ・マネジメント層であると各地域に関わる中で感じています。民間事業では市場部分に多少のテコ入れはできますが、それを地域社会的に殺すことは簡単です。様々な地元団体を駆使して事業の邪魔をすることも、別の予算事業のインセンティブをちらつかせて、市場と向き合うことよりも短期的に売上になる提案をして、傀儡にすることも可能です。

岩手県紫波町のオガールプロジェクトのような新たな「市場」を町有地に作るという試みは、過去にはあまり見られなかったわけですが、これはトップ・マネジメント層の決断が極めて重要であると考えさせられたケースでもあります。町有地という政治・行政側がグリップした土地の上には、従来であれば、公共施設ばかりができてしまって、そこを分厚くしてしまうところを、稼ぐ場所がなければ、行政サービスも充実できないと判断し、それを実行しているわけです。

その他、道路上、公開空地上での様々な企画とかも全国各地で発生してきていたり、海外でも官民連携での動きが市場を作る規制緩和とかに向いていたりするのは、つまりは皆が抱えている課題は再配分のあり方以前に、パイをどう作るか、から迫られているのだと感じています。

このあたりのジレンマを抱えながら、僕らは具体的な課題解決に取り組んでいるのだと、自分で話しながら感じしました。

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