まちづくり分野で長らくずーっと言われているのが、「人材育成」です。

各省庁もこぞって人材育成事業の予算を積んで、座学型の研修やったり、現地研修というインターンプログラムのようなものを用意したりしています。ただ、じゃ、それを経験して「素晴らしいまちづくり人材」が生まれてきた試しがあるかといえば、少なくとも私のまわりの事業やってる人たちはそんな研修事業で勉強してやっている人はいません。

そもそもまちづくり人材というのは、流動的なものです。常に出入りがあって当たり前。
ある市場があった時に、その市場に出入りする人材というのは、その市場の付加価値生産によって左右されます。付加価値生産が高い産業であれば、より優秀な人材が集まり、低い産業であれば、そうではない人材が集まる、というのが基本です。

「まちづくり領域にいい人材が来ない」というのは、付加価値生産自体の体制が担保されていなかったりするために、やりたくても、イキナリ飛び込んで仕事にできる人じゃないと無理ってこと。実際、若くて優秀な人材で地域活性化に流入数は増加しつつあるとおもいますが、それでも、やはりその前にその地域に一定の報酬とかも用意できる体制を用意したりしないと厳しい反面、かといって付加価値生産にプラスにならない単なるぶら下がり社員みたいなのでもだめ。だから時限的に報酬は支払いつつも、その働きに応じてさらに継続したり、独立してやってもらったりというパターンでやったりするわけです。だから日本で若者系のプロジェクトが注目されるのは、交付金系の充実している中山間地や離島系などが多いのは、このような初期部分の人材資金を担保しやすかったりするからです。ただ、この初期の時期にキャッシュ・フローを作れる人材でないと、継続は困難だったりするのも事実です。交付金系で若者が使い捨てられている実態も垣間見たりします。

プロとしてまちの課題解決や生き残り、はたまた成長を実現していくための主体という人材は、極めてレアです。今現在は、人材育成事業の講師になるような人たちは、そのようなかなり特異なキャリアで達している場合が多いです。ビジネス領域でバリバリやってて一定の年齢に達してまちのために尽力しているパターンは、海外のBIDのチェアマンやマネジャーにも見られる傾向です。もしくは、自分もそうですが学生時代からまちづくりに関わり、そのまま事業として展開している人たちです。ただ、これも一握りに一緒にはできず、それぞれが都市計画分野、建築分野、僕みたいな経営分野みたいな領域を持って、そこで実績を上げていっている人が多かったりします。

ただし、あまりここをストイックに考えなくて良いのは、基本的な兼務がベースであるという点です。まちの取り組み自体は、地元にないのであれば外から移住してきてもらうケースもあったりします。実際に既存建築活用型の中心部再生に取り組んでいる人たちは建築家などの人たちが多いわけですし、商店街とかで言えば自分の本業持ちつつ事業取り組んでいる人もいたりしますし、多様な関わり方は事業領域別ではあったりします。こうなると、こちらの兼務型の場合には、事業メニューに合わせて複数産業分野とコラボしてやっていくことを仕掛けていくことが有効であると思っています。

つまり「まちづくりやりましょう」とかではなく、それぞれの市場とまちづくりが重なるモデルを示して、「こういう事業にも取り組んでくださいな」ということを示して、参入を促すということですね。重複領域のビジネスチャンスを見出してもらえれば、兼務してやっていく層も増加していきます。先日も工務店の業界紙の取材をお受けした際に、工務店の将来ビジネスモデルとかの話なれば、まちづくりでの空間実現部分(店つくったり、住居整備したり)についての変化の道筋を一緒につけていくことも十分に可能だったりするわけです。

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僕がやりたいことは、まず、プロ領域としては、各地域の優秀な何らかの特異領域を持つ実績を持つマネジャーが、複数地域に流動性を持って働き、市場全体の産業としての付加価値生産量を増加させること。それによって、流入する人材の質そのものを高めることで、中途的な了入を増加させること。しかも、これを未来永劫やらなくてはならないというのではなく、3年-5年とかの腰掛けOKで、自分の人生のキャリアの一部としてまちづくり領域で仕事してみたいと思ってもらえる環境整備をすること。また、学生時代から御膳建てされていないマジの事業として損得責任含めて、まちの課題解決に取り組ませる機会を提供することで若手から発掘すること。

専業領域についてはAIAのアライアンスパートナーのマネジャー陣などと共に攻めてしっかり複数地域での付加価値生産拡大を実現していきたいと思っています。若手人材育成は複数の大学と組んだ、学生向けの実践する機会提供をしていこうと思っています。既に北九州市立大学とは去年から開始して、来年度からは本格的なコース化を目指しています。

さらに兼務領域は、異なる別市場にいる人材にまちづくり分野にも寄与する事業領域に積極的に参入してもらえるケースを作りつつ、業界とその流入を増加させる思索を講じていくこと。ここはかなり多分野あるので、積極的に開拓していきたいと思っています。

どちらにしても、人材育成事業というのはこういう今、人材が稼いでいる別市場との関係性を紐解きつつ、同流入しやすくできるか。兼務でも関われる環境を創るか、があってこそ機能していきます。

出口もないのに、単に教育訓練の機会だけ作っても無意味って話です。
人材市場を無視して、国・地方の行政マンの一部の人は「地元の人たちが本気になってもらって彼らにやって欲しい」みたいなことをいいますが、そもそも地域衰退問題は、その当事者たちにもその責任の一旦があります。楽観的に自発的にやってもらえるように育成プログラム、みたいなのは本当にいい加減な研修だと思っています。そんなんで変わったまちはあるか?という話です。そういう機会に昔は呼ばれていったりしましたが、本当に無意味な「楽しかった」レベルの感想ばかりで、実際にそんな単なる研修で地域で動き出したのを見たことありません。講演会というのは質の低い落語のように捉えられているといっても過言ではありませんし、話を聞いたくらいでできることなんて、話を聞く必要さえないと思っています。

僕らがやってきたブートキャンプは出口から考えています。事業やってどの程度のキャッシュ・フローを生み出せるかというところをしっかり組み立てて、さらに実際に実施することを前提として合宿で集中して計画組み立てをするわけです。その時に過去にやってきたトライアンドエラーから起こりうる問題を事前に考え、対応策を組み立てていくわけです。出口があるからこそやる意味があるわけです。単にノウハウ研修だとしたら無意味です。

民間市場の人材流動のあり方について意識しないと、税金でやってる人材育成事業は単に「耳学問」を学びたい人たちに税金を投入して終わってしまうと思います。また、マネジャーの給料の制度保証とか求めたりして、自分たちの財布のことしか考えていない現場側ももう少し視点を変えなくてはならないと思っています。これは私達も含めてです。

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