役所には使われない報告書が山積みになっている。

こんな話はこんな仕事をしていると幾度と無く聞いたり、目にしたりします。まちづくり分野で少しばかり成果をあげると、行政の調査事業の委託を受けたシンクタンクなどからヒアリングを求められて、最初はどんどん対応して答えていました。そして、そのようなヒアリングをもとに報告書が書かれていることに気づいたのは、早稲田に関わっていた頃、もう15年以上も前のことです。ま、最近はデータとかになっいるから山積みというのは言い過ぎかと思いますが。。

その時からずーっと疑問がありました。

「聞いただけで報告書かいて、それを読んだ人は僕らがやっていることを正確に模倣することはできるのだろうか」

という疑問です。

けど、実態としては多くの場合には聞いて分かることはそんなに多くはありません。資料を沢山集めて分析したとしても、資料になっているもの、しかも事後的にまとめているので、ヒアリングの記憶さえ正しくないこともあります。実際に仕掛けている時はその時、その時で必死なので、そこまで体系的に記憶しているわけでもなかったりします。

さらに、このような実に曖昧な情報、事後的に残っている断片的な情報を、さらに又聞きした状況で事例などにまとめたとしても、有用性はほとんどないと思います。そこにそういう事例がある、ということは分かったとしても、ゼロからどう立ち上げるか、なんてことまでは整理されなかったりするわけです。その分からない状態での挑戦に補助金をつけるので、ほとんど失敗して終わってしまうとも言えます。

今、AIAのアライアンス事業として複数地域に同種の事業展開をしていって分かるのは、実際事業を模倣可能な状態まで体系化するには、自ら地元まち会社とコンサルではなく、共に立ち上げていって、その時系列情報をリアルタイムに記録し、それらの内容をさらに複数地域でやりながら普遍性を認識して、他地域で立ち上げる際のプロジェクトシートとしてまとめ上げます。さらに、それでも地域によって変わる変数部分(例えば、人物、資金、組織ガバナンス)を各地域にフィットさせて、再考し、実行していきます。

大切なのは、インプリメンテーション(実装)のプロセスなのです。コンセプト、おおまかな合理的なモデルについてはある程度過去の事例集などでもヒアリンクでまとめられるのですが、それが形になるまでにどうやって地域でやるのか、という具体的なプロセスです。反対する人が出てきたり、必要な資金が集まらなかったり、リスクテイカーが現れなかったり、途中で裏切られたり、などなどの自体にどう対応しながら理想的モデルを実現するか、という生々しい部分です。

ここまでやらないと真の意味で「事例を紹介した」とはいえないのです。
従来のような複数の事例を並べて類型化したとしても、それは自動車をスポーツカー部門、ファミリーカー部門などに分けて整理しただけで、それぞれを創り上げる話にはならないのです。

地域活性化に取り組む現場が必要なのは、そんなカー雑誌のような話ではなく、「実際にクルマの組立に必要な部材、組立方法、組み立てる人材の技術育成」なのです。そして、それは実際に実践している人間たちがリアルタイムで形づくって行かなくてはなりません。

実際にやってみるからこそ、点と点とをつなぐ線の詳細まで高精細になり、他の地域にも持ち込み可能になっていきます。先行地域の人が、他の地域にも共に関わってさらに普遍性を認識して、プロジェクトシートを改善していかなくては、適応可能地域は増加しないのです。

かつてアメリカの複数地域に展開しているNPOを視察した際に、自分たちの組織内部に複数の財団やチェーンストアコンサルタントの支援を受けてReplication Centerを創設。それで自分たちの実践の体系化を専門家と共に、現場の人たちが取り組んで、水平展開を実行していました。

AIAでも来年は、アライアンスパートナーと共に、この体系化にさらに本格的に取り組み、互いのアライアンスパートナーの地域で実践を繰り返してみようと皆で話しました。

以前経営史を学んだ際に、ハーバードビジネススクールの初期の先生たちは、全て鉄道会社の現場のマネジャー経験者などの実践者たちだったと知りました。体系化は、シンクタンクなどに丸投げすることではなく、現場の人間たちこそが前線に立ちながら行わなくてはならないことだと思っています。さらに、そのような先駆的地域は体系化によって、先行者利益をちゃんと得なくてはならないと思っています。

我々がエリア・イノベーション・レビューを発行していたり、ブートキャンプを開催していたりするのは、あえてそういう機会を作って体系化を義務付けるためという意味合いが強いです。


現場が自ら体系化を行い、さらに仲間の地域でそれを再現して成果をあげていけば、下手な調査んてする必要はなくなり、捨てれる報告書はなくなるのです。そして、少しでも活性化する地域は増やせると考えています。

逆に使われない報告書が増加するというのは、体系化をせずに0→1の事業開発に明け暮れてしまう僕ら現場側の責任でもあったりします。なかなか両輪回すのは難しいですが、少なくともAIAのパートナー12地区とはやってみよう!と、先日の忘年会で新たに持ちました。

現場が連帯して取り組むことで救われる地域も多くなり、ムダな調査もなくなるのです。

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